いよいよ、本題の「絵の見方」に入ります。
名画とは、どんな絵を言うでしょうか? ずばり、 自分が気に入った絵 です。 世間の評判がどうだろうと、他人がどう言おうが、自分にとって印象的であり、自分の心を打ち、長い時間観て居たくなるような絵こそが、自分にとっての名画です。車の運転じゃあるまい、絵の見方にルールなんてありません。 それで良いと言えば良いのですが、それでは人と良さを共有できません。 美術の長い歴史や美術教育、美学の積み重ねの中で「名画の基準」といったものがある程度出来ています。 主観的でもありますが、主に以下のようなものが挙げられます。 ① モチーフ:描かれている物は誰が見ても理解されやすい物か? 抽象画であれば抽象画として認識できる絵か? ② 描写の正確さ:①で描かれている物は、形態、色、奥行きなどが正確に描かれているか? ③ 色の正確さ:①で描かれている物の色(絵の具)の選択や混ぜ方、描き方は適切か? ④ 濃淡・太さの適切さ:色の濃淡や線の太さは絵画表現として適切か?(③や④を「マチエール」と呼んだりします) ⑤ 明暗の統一感:①から④がもたらす絵全体のトーン(明るさ・暗さ)に統一感があるか? ⑥ 構図のバランス良さ:キャンバスという枠の中で、モチーフはバランス良く(偏り無く)配置されているか? そして、性質が異なりますが、以下の基準が加わります。 ⑦ 画家の個性の明確さ:①~⑥を踏まえ、その画家ならではの主張・メッセージ・技法が加えられ表現されているか? 1枚の絵でこれらを確認するだけでも、最短で数分は掛かるでしょう。 この辺を押さえて観れば、最初にぱっと見たときよりも多くの物を1枚の絵から認識できることと思います。 そして、世間で言う「名画」は、これらの要素が満遍なく備わっている「高得点の絵」だからこそ、多くの人の眼を惹きつけ「名画」になるのです。 こう書くと「描写が正確でなかったり色も適切でない絵がたくさん有るのでは? なのにどうして名画なの?」という声が出るかもしれません。 確かに、描写や色を崩したような絵はいくつもあります。でも。崩しているようで崩してはなく、基本線は押さえてあるのです。 たとえば、ピカソにこんな絵があります。 ・眠る農夫たち ・アヴィニヨンの娘たち (画像はともにウィキペディアから) 上の2つだけを見ていると、「ピカソは正確に絵を描けないのでは?」と思うかもしれません。 でも違います。ピカソは下のように崩さない、比較的正確な絵も描けます。 ・椅子にくつろぐオルガ ・ガートルード・スタインの肖像 (画像はともにウィキペディアから) 「下手だから正確に描けない」のではありません。 画家の主張・メッセージを高めて伝えるため、わざと変えて崩して描いているのです。 よくよく眺めていると、崩しているようで、「人」は「人」と認識でき、基本線は崩していません。 そして、①~⑥に加えた、⑦の主張・メッセージ・技法こそが画家の個性であり、絵が(写真でなく)絵であるゆえんです。 ピカソは、「眠る農夫たち」ではぐったりと疲れぐっすりと眠る農夫達の深い昏睡の様子を、アヴィニヨンの娘たち」では売春婦としての獣的な醜さを、それぞれ強調するために、このような描き方をしているのです(これをデフォルメと言います)。 デフォルメがされていても、上記の①~⑥は押さえてあり、それを押さえたうえでのデフォルメですので、下手な人にはできない技法なのです。 そして、この⑦の主張・メッセージ・技法こそが多くの人を感動させ、名画としての名声を高めていきます。 なお、ルネッサンス期のような古い絵では、⑦の主張・メッセージは薄くなりますが、一方、古典ならではの美しさが備わっていますので、それを堪能することとなります。 絵画の見方、少しは参考になったでしょうか? 絵画鑑賞を堪能したら、次回は「復習(観た後の振り返り)」について触れます。
by zouchan6
| 2016-02-09 05:50
| 美術鑑賞 art watching
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