先日、横浜美術館のメアリー・カサット展を訪れてきました。
メアリー・カサット展、同展サイトにも「回顧展を35年ぶりに日本で開催」とあるとおり、開かれた記憶がありませんが、欧米の美術館では彼女の作品をよく目にします。 メアリー・カサットは1844年、アメリカのペンシルヴァニア州(フィラデルフィアがある州)に生まれました。 ・自画像(※この絵は展示されていません) (画像はウィキペディアから) 家庭は比較的裕福だったようです。 画家を志し地元で修行を積んでいたようですが、22歳のとき、パリへ渡り修行を続けます。 ・バルコニーにて (画像はウィキペディアから) 今回の展覧会で最初に展示されている作品です。 28歳から29歳の頃、スペインのセビリア旅行中に描いた絵です。 「独特な画風」とまでは言えませんが、三角の構図、陰影表現、描写の正確さ、鮮やかな色遣いなど、20代にして画家としての技巧は完成されている印象です。 この頃のカサットは、スペインの画家である、ベラスケスとムリーリョに魅せられていたようです。 ・ムリーリョ「窓際の2人の女性」 (画像はウィキペディアから) 「バルコニーにて」自体、この「窓際の2人の女性」に酷似した絵といえます。 ・ディエゴ・ベラスケス『イノケンティウス10世』 (画像はウィキペディアから) また、解説には無く根拠も無いのですが、個人的にはこの絵はゴヤの影響を強く受けている印象を受けました。 ・ゴヤ「バルコニーの美女と売春斡旋婦」 (画像はウィキペディアから) 道徳的でないという点はゴヤやしいのですが、光の当たり方、スペインの民族衣装をまとっている点、バルコニーで描いている点から、メアリー・カサットの絵から(ベラスケスとムリーリョよりも)ゴヤを想起しました。 カサットは、画業を重ねていくうち、徐々に自らの画風を確立していきます。 ・浜辺の子供 (画像はウィキペディアから) カサット40歳の作品です。 モチーフは「2人の女の子(姉妹?)」と「砂浜・海岸」という2つの光景の組合せです。その組合せ自体は単純ですが、よく見ると、2つの光景の組合せがやや不自然な印象があります。 カサットは女の子達にかなり接近して描いていますが、この場合、遠くの景色はかなり広角に映るはずです。 この構図で描くとすれば、「カメラの望遠レンズで覗きながら描く」ことになりますが、そのような所為はしていないでしょう。 カサットは「2人の女の子」と「砂浜・海岸」をそれぞれ別にとらえ、その2つをあえて1つのキャンバスに収めた「人工的な風景」、つまり「彼女の心の中の心象風景」なのです。 印象派の特徴に「実際の風景・人物や理想的な風景・人物ではなく、心象風景を描く」という点が挙げられます。 印象派の前は、「実際の風景・人物」もしくは「理想的な風景・人物」を描いていました。 ごく稀にゴヤの「黒い絵シリーズ」やカスパー・フリードリッヒのような心象風景と思わしき絵を描いている画家もいますが、彼らは例外的であり、ときには異端ともされていました(「黒い絵シリーズ」は非公開でした)。 ・ゴヤ「犬」 ・カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ「海辺の僧侶」 (画像はともにウィキペディアから) それに対し、モネ、マネ、セザンヌをはじめとする印象派では、徐々に「見える風景ではなく、画家の心の中にある光景」を描き始めます。 ・モネ「印象・日の出」 (画像はウィキペディアから) 「何を描いているんだか分からない」「下手」と当時は異端とされた描き方ですが、市民社会の発展とともに支持を得ることとなりました。 現代絵画では心象風景を描くことがごく当たり前のように行われていますが、その描き方を発見したのが印象派でした。 印象派の説明が長くなりましたが、カサットはこの「浜辺の子供」を描くことで、印象派の流れを踏まえ、それを継承していることがはっきりと読み取れます。 ・桟敷席にて (画像はウィキペディアから) 華やかなオペラ歌劇場の桟敷席で、黒いドレスを着た女性が扇子を片手にオペラグラスで舞台のほうを熱心に眺めています。 背景では多くの観客が彼女に同じく舞台のほうを眺めていますが、1人の男性がオペラグラスで彼女を熱心に眺めています。 昔も今も、オペラといえば上流階級の人々が着飾って集い、華やかさを楽しむ祝祭空間とされています。日本でも「歌舞伎座はお客がお着物を見せ合う場所」と言われますが(演目に合わせた柄を選んだりお金掛かりそう…)、それに似た感じだったでしょう。 絵の女性も、黒いドレスに白いブラウス、耳には銀のパールが光り、上品さ・裕福さをうかがわせます。 そして、そのような魅力的な女性を探し近づこうと目論む男性もいたのでしょう。 ちなみに、オペラ歌劇場、3月にウィ-ンで訪れました。確かにこのような感じです。 (自ら撮影) そんな、市民社会のなかのある意味日常的である意味劇的なひとコマを、カサットは「浜辺の子供」に同じく大胆な構図と着実な技巧、印象派らしい明暗とぼかしで描いた秀作です。個人的には「前期の代表作」と言えます。 ・扇を持つ夫人(アン・シャーロット・ガイヤール) (図録より) ピンクを基調とする、印象派らしい作品です。モデル、とりわけドレスと背景がほぼ同一色にあります。 印象派の特徴に「色を色として機能させる、色自体に語らせる」という点もあります。この絵も、全体を支配するピンクが、モデルの華やかさを引き立てているかのようです。 ちなみに、この絵は美術館でなく個人蔵です。先日の高島野十郎展も個人蔵の絵が中心でしたが、個人蔵の絵では大型の回顧展でないと観る機会も少ないので、その意でも貴重です。 ・眠たい子どもを沐浴させる母親 (画像はウィキペディアから) 「桟敷席にて」とあわせ同展のポスターやチケットにも使用されている1枚です。 母親が、水の入ったたらいに布を浸し、子供の体を洗ってあげている光景です。母の大きなドレスに包まれながら手足を洗い、子供は安堵感に溢れている様子が窺えます。子供の服装や親子の服の色合いから夏を感じさせ、青を基調に涼しげな感じと「親と子のほのぼのとした一体感」「親子と空間との一体感」を感じさせます。 と感じていたところで、今回一緒に鑑賞していた人からあることを言われ、全く気付かなかったので驚くとともに、見方や感想が全く違ってきました。とても参考・勉強になりました。これについては②で触れます。 (②へ続く)
by zouchan6
| 2016-07-12 14:05
| 美術鑑賞 art watching
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