「北海道アート紀行①」からの続きです。
札幌芸術の森からバス→地下鉄→バスを乗り継ぎ、市内北東部の郊外にあるモエレ沼公園へ足を運びました。 この公園、彫刻家イサム・ノグチが「全体を1つの彫刻作品とする」というコンセプトのもとに基本設計を手がけ、着工から23年を経て2005年に開園しました。 面積約188.8ヘクタール、「東京ドームのグラウンド40個分以上」もの広さの、北海道らしい広大な公園ですが、コンセプトに基づけばこの公園全体が「1つの彫刻作品」という、芸術としてあまりに壮大で類を見ない作品です。 公園のほぼ中央部に、公園の拠点である「ガラスのピラミッド "HIDAMARI"」があります。 大きなガラス張りピラミッド型という斬新な建物。雪冷房も導入し環境に配慮してている点が北海道らしいとも言えます。 中にはレストラン、ギャラリー、売店、管理事務所のほか、1階にはイサム・ノグチの「オンファロス」という作品があります。 上部中央から水が湧き出ています。 「オンファロス」とは、ギリシャ語で「へそ」を意味するそうです。『世界大百科事典』内の「オンファロス」の言及によると、「古代ギリシアのデルフォイのアポロン神殿の奥殿には,そこが世界の中心であることを示すため,大地ガイアのへそオンファロスOmphalosをかたどった聖石が安置されていた」のだそうです。 HIDAMARIの屋上は展望台になっています。ここから公園全体や札幌市内を俯瞰できます。 HIDAMARIから、公園最大の造形物であるモエレ山へ登ります。不燃ゴミと公共残土を積み上げ造成された人工の山だそうで、麓からの高さは52メートルです。 斜面はなだらかで、冬にはスキーやソリ遊びができるのだそうです。登った時は、なぜか新郎新婦がキャッチボールをしていました(笑) それだけこの公園が市民に愛され、親しまれている証左でしょう。 山頂からは、HIDAMARIの展望台よりも遠くまで、札幌市内とモエレ沼公園全体を見渡すことができます。 山頂の幅は、イサム・ノグチの生誕100年にあたる完成年にちなんで2004cmとなっているのだそうです。 周囲に高い山が無いとあって、山頂の中心には三角点(二等基準点)が設置されています。 山頂でのパノラマ撮影も試みました。 山から下りると、モエレ山とプレイマウンテンの谷間に位置するアクアプラザに出ます。 あいにく水は止まっていました。 プレイマウンテンの正面に位置するミュージックシェルです。 手前の舞台は、「オンファロス」と同じく香川県庵治産の花崗岩が敷かれています。 球形の建物は舞台の反響板を兼ねています。内部には出演者用の控室とトイレが組み込まれています。 このモエレ沼公園、一見難解で「浮世離れした」オブジェにも見えますが、オブジェの中にも劇場が組み込まれていたり市民のスキー場が組み込まれていたり、雪冷房が設置されていたり、ゴミ処理だったりと、機能的な面も多々見受けられます。 「札幌の市民公園として求められる機能」と「全体的な芸術体験」「自然との触れ合い」という、諸テーマを融合させています。
なかなかに興味深い公園(作品?)です。 ミュージックシェルの近くにある、テトラマウンドです。 三角に組み上がるステンレスの円柱は直径2メートル。円柱には複雑な模様が施されており、芸術作品として細部を見ることの楽しさも感じさせてくれます。 中央部はお椀型に盛り上がり、登ることができます。 ミュージックシェル、テトラマウンドの隣に、大きなプレイマウンテンがあります。 高さは、東西方向が200メートルとピラミッドのような四角錐の形をしており、ピラミッドを彷彿させる造形的な雰囲気を備え、公園の芸術性に大きく寄与しています。 西側の斜面は階段状になっています。エジプトのピラミッドを彷彿させつつ、ミュージックシェルの座席としても機能できます。「芸術と機能の両立」がここにも見られます。 石段は99段あり(同じ月に訪れたばかりの)犬島から運ばれてきた花崗岩が積み上げられています。 階段の斜面では、さきほどの新郎新婦が今度は撮影をしていました。 モエレ沼公園という、世界でも類を見ない巨大な芸術作品の記憶とともに、お二人には末永く幸せになっていただきたいものです。 山頂はモエレ山ほど広くないものの、ここからも公園全体が見渡せます。 西側の階段斜面とは対照的に、東側の斜面はなだらかなスロープ状です。緩やかにカーブする1本道が伸びています。 1本道を下り、モエレビーチを経ると、サクラの森に入ります。約2,300本の桜が植樹されている中に7つの遊具エリアがあります。 遊具はすべてイサム・ノグチの設計です。原始人が自然と向き合ったように、子供達にも遊具に向き合ってほしいとするイサム・ノグチの願いが遊具に込められています。 中央の最も高いブランコは撤去されていました。 さすがに、高すぎて危ないでしょう(笑) 公園が広大過ぎるせいか、整備が不十分で子供を安心して遊ばせられない面が感じられます。それでも、自然の中の遊具は小さな子供にとって楽しい遊具には変わりないでしょう。最近何かと室内にこもってテレビやゲームにばかり興じ「遊びで体を動かすことの大切さ」を失いつつあるように見える子供達は、札幌でも例外ではないかと思いますが、芸術面での感性はさておき、広い公園で存分に遊んでほしいものです。 モエレ沼公園、訪れる前は、公園全体の構成をつかんでいなかったので「パワースポット的な、古代遺跡的な、奇妙な場所」と勝手に思っていました。 実際に足を運んでみると、印象は大きく異なり、市民生活に溶け込んでいること(プールには大勢の家族連れが訪れていました)、公園としての機能も充実していることを感じました。 その中でイサム・ノグチの壮大な芸術性を具現化していることに「文明と人間と自然と芸術の接点を探る、近代芸術の大きな成果」を見た思いがしました。 奇を衒った場所ではないからこそ、市民にも親しまれ、観光客も多くを感じながら寛げるのでしょう。 世界に類を見ない、あまりに壮大な「作品」。 日系人による、日本離れしたこの「作品」を日本の誇りに思いつつ、モエレ沼公園を後にしました。 (画像はすべて自ら撮影)
by zouchan6
| 2017-08-13 12:18
| 美術鑑賞 art watching
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Comments(4)
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wildhorse
at 2017-08-22 09:45
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スケールが大きいですね。日本人離れした壮大さを感じます。ここも、北海道ならではですね。
子供の頃、こんな公園が近くにあったら楽しかっただろうなと思いながら、写真を拝見しました。 「ブラック・スライド・マントラ」という作品も札幌中心部にあるみたいですね。 イサム・ノグチについては名前程度しか知らなかったのですが、略歴を読むと、日米ハーフであるが故の苦労が絶えなかったようですね。今ならば、何も問題ないのに・・・
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zouchan6 at 2017-08-22 17:35
wildhorseさん
コメントありがとうございます。 「芸術作品」とは思えない大きさです。「世界最大」と称してもよいのではというスケールです。 イサム・ノグチも、これだけの空間をもらえて、芸術家冥利に尽きたでしょうね(笑) ブラック・スライド・マントラ、初耳でした(;^_^A イサム・ノグチらしい形と質感の作品ですね。 国吉康雄のときに書きましたが、イサム・ノグチはじめ日系人は戦時中に大変な目に遭っています。 日系人といえば、子供の頃に見たNHKの大河ドラマを思い出します。 http://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010897_00000 クイズ面白ゼミナールの後に放映していました(笑)
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Wildhorse
at 2017-08-22 22:13
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昔の大河は殆ど観ていたのですが、「山河燃ゆ」は面白くなくて止めてしまった記憶があります(笑)
大河は江戸時代までという思い込みがあったような気がします。 「クイズ面白ゼミナール」、ありましたね。 司会者の個性が強烈でしたね。
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zouchan6 at 2017-08-23 06:42
wildhorseさん
コメントありがとうございます。 大河ドラマ、時代劇の印象が強くて、明治維新以降は思いつきにくいですよね(笑) 「クイズ面白ゼミナール」の司会者、『気くばりのすすめ』という本が売れましたね。 「忖度」とかの文化を裏付けたのもこの本かも。罪深い本です(笑)
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