ウィーン3日目の土曜日は、ベルベデーレ宮殿・アルベルティーナを訪れてきました。
ベルベデーレ宮殿は、市内中心部から近い宮殿で、クリムト「接吻」があることで知られています。 (画像はウィキペディアから) 宮殿方面の路面電車の駅がホテルの近くにあり、助かります。 ハプスブルク家の夏の離宮だったらしく、内装も外観もとても立派な宮殿です。市の中心部に向かって傾斜に広がるお庭も見事です。 館内写真NGとあって建物の写真を撮り忘れてしまいました。「ヨーロッパを代表する宮殿」としてベルベデーレ宮殿を模している工場まであるぐらいなので、ご本家をもっとしっかり観ておくべきでした。 「ウィーンで絵を観るならクリムトの接吻は見ておいたほうがいいかな」ぐらいの軽い気持ちで出掛けた宮殿でしたが、絵と対峙し、とても強く心惹かれました。「モナリザ」しかり、ドレスデン「システーナの聖母」しかり、世界中から観光客が訪れるだけの絵には、それだけの力があるなと実感します。 まず、この絵の正式名称は「恋人達(接吻)」です(接吻って死語?(笑))。「接吻」で有名ですが、そもそも正式名称ではないんです。 写真では分かりにくいかもしれませんが、キスしていません。女性の手や指は男性に絡み、男性が顔を近づけていますが、女性は唇を閉じたまま。キスしようともしていません。むしろ、女性は指の関節が曲がり指の力を緩めていないことからも、キスするどころかキスを拒絶しているようにも見えます。 さらによく観ると、男性と女性の身長のプロポーションも変です。 女性は跪いていますが、そうであればこの男性の身長はかなり低いか、よほど上半身を屈めています。 では、この絵の2人は一体何をしようとしているのか? そしてこの絵は何を伝えたいのか? おそらく、キスとか性交といった具体的な行為ではなく、「男性から愛され、その男性に身を預け、彼と心身ともに深く交わりあい、その愛で身も心も満たされたい」という精神的な願望を表しているのかな?と絵の前で解釈しました。 クリムトはエロチックな絵も沢山描いていますのでその方向で解釈したくなるのですが、それではあまりに安易ですし、ここまで構図に凝る必要もありません。 具体的な男女や草花、形、色などを組み合わせ、もっと崇高なものを1枚の絵で表現することに試みていたのではないだろうか? ともあれ、1枚の絵の前で数十分もの長い間、思案していました。 ベルベデーレ宮殿にはクリムトのほかエゴン・シーレの「家族」 ベックリン「とある海の牧歌」 セガンティーニ「悪霊」 フリードリヒ「漁夫のいる風景」 とか印象的な絵がいろいろありました。 午後は、ベルベデーレ宮殿から路面電車を引き返し、アルベルティーナへ向かいました。 アルベルティーナ、ウィーンの中心部にあります。デッサンを約65,000点、版画を約100万点も擁する、世界最大級のデッサン・版画コレクションの美術館です。 目的は、ダヴィンチ、デューラー(とくに「うさぎ」)、ルーベンスなどのデッサンです。 ちょうど訪問時には特別企画展として「シャガールからマーレヴィッチまで−ロシア前衛芸術展」が開かれていました。 チケット売り場に「特別企画展が催されている都合上、常設展の展示が縮小されています。ご了承ください」の表示があったので「デッサン観れないのかな・・・」と不安だったのですが、幸い観たいデッサンは観ることができました。 こちらが有名なデューラーの「うさぎ」です。 500年以上も昔のデッサンですが、とても正確に表現されています。目の前に実物があるかのようです。 対象を正確に描こうとしたデューラーの姿勢と才能、試行錯誤が伺えます。 こちらはレンブラントの「象」。 デューラーのデッサンに比べるときわめて粗い印象ですが、逆に象の雰囲気や動きが伝わってきます。 ダビンチのデッサンです。 ミケランジェロのデッサンも、肉体の捕らえ方が見事です。 ラファエロのデッサンもあります。 ルーベンスが息子と娘を描いたデッサンもあります。 ルーベンスはカラヴァッジョから写実性を学びましたが、その写実性に加え、わが子への温かみ・愛情も感じられます。ルーベンス子や甥っ子を無性に愛したほか、絵描きなのに外交まで引き受けてしまう「お人好し」なのですが、性格が絵に表れています。ルーベンスはじめ高山辰雄ほか、不器用ながらも人間的に成熟した絵描きが大好きです。「絵を通して見習いたい」という気持ちもあります。 話を絵に戻します。 クリムトのデッサンもあります。上の絵とはトーンがだいぶ異なりますが、デッサンを超えた、趣き深いデッサンです。 エゴン・シーレのデッサンもあります。 アルベルティーナが「デッサンの殿堂」と呼ばれるゆえんが分かります。 「縮小中」とはいえ、エッセンスなデッサンは観ることができて、大満足です。 デッサンのほか、アルベルティーナには印象派を中心とする寄贈コレクションもあります。これもなかなか名画ぞろいです。 ・マティス「パロット・チューリップ」 ・エルンスト「時代を超えた沈黙」 ・ベーコン「座る人物」 印象派のほか、プチ展示としてキファーも特別に展示されていました。 デッサンと寄贈コレクションまでは、自館所有のため、写真を撮ることができました。 特別企画展の「シャガールからマーレヴィッチまで−ロシア前衛芸術展」は、「社会主義を導入したロシア革命をめぐり、絵画がどう変化し、どう寄与したか」を、政治の映像も交えながらロシア前衛芸術の作品を展示するものです。 ロシア・サンクトペテルブルグにある国立ロシア美術館からの借り入れが中心のため写真はNGでしたが、これもとても見応えのある企画展でした。とりわけ、サンクトペテルブルグから来た、新婚シャガールの絶頂期を表現する「散歩道」を観れたことは僥倖でした! カジミール・マレーヴィッチ、千葉の川村記念美術館に「シュプレマティズム」という絵があります(私は勝手に「ナイキの絵」と称していますが)。 マレーヴィッチのことはあまり深くは知りませんでしたが、今回の展覧会で画業を俯瞰することができたのは大きな収穫でした。 マレーヴィッチは、抽象画家として「未来主義」から「「シュプレマティズム(絶対主義)」を唱えます。 シュプレマティズムとは、絵におけるモチーフとか具象的な物を一切排除した主義です。 下の絵は「白地に赤の四角で農民女性の感情を表現する」というように、感情とか観念的なものを究極的な形態で表現することを試みます。 (画像はウィキペディアから) マレーヴィッチについて、川村記念美術館のサイトにも「目に見える自然の表象を描くことを一切否定し、質量や動き、宇宙エネルギーといった抽象的で目に見えない対象を表現する」「マレーヴィッチが遺した抽象絵画理念は、20世紀の絵画に計り知れない影響を与え」たとあります。 一方、ロシア革命後のレーニン・スターリン社会主義の下ではこの理念は否定され、展覧会が中止されるなどのアクシデントに見舞われたことから、マレーヴィッチは具象画家へと戻ります。 (画像はウィキペディアから) 「政治に翻弄された画家」と表現される代表的な画家です。 マレーヴィッチの絵、日本では川村記念美術館のナイキだけかと思いますが、彼の人生を重ね合わせるととても含蓄深い絵です。 なお、アルベルティーは元々宮殿でした。第二次大戦で損傷し修復されたものですが、内装も豪華です。 他の宮殿と違い撮影もOKですので貴重です。 ベルベデーレ宮殿、アルベルティーナとも期待以上の収穫があり、とても充実した1日でした。 最後はお土産の話を。 海外旅行の楽しみにお買い物があります。 画集は3冊。 重いです・・・ また、「地元スーパーでのお買い物」もあります。 オーストリア名物の「カボチャ油(ドレッシングにいい?)」「あんずジャム」「岩塩」「ザッハトルテ」のほか、日本ではあまり見かけない商品を買い、楽しんでいます。
by zouchan6
| 2016-03-24 17:20
| 美術鑑賞 art watching
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