先日、資生堂ギャラリーで開かれている「Frida is」を訪れてきました。
この展覧会は、写真家の石内都さんがメキシコの女性画家フリーダ・カーロ(1907年~1954年)の遺品を撮影した写真展です。 この写真展は石内都さんの作品展ですが、その前提となるフリーダ・カーロの生涯と画業に触れながら感想を述べたいと思います。 ・フリーダ・カーロ (画像はウィキペディアから) 下の写真は、鑑賞を誘った師匠からいただいたフリーダの写真です。 師匠に同じく、思索深い人柄が窺えます。 フリーダ・カーロは1907年、メキシコシティの郊外コヨアカンで生まれました。 ・コヨアカン サンタ・カテリーナ教会 (画像はウィキペディアから) フリーダの父ギリェルモ・カーロはハンガリー系ユダヤ人の写真家です。 ・祖父母、両親と私 (絵の画像はメキシコ共和国の著作権法の関係で掲載することができません。お手数ですが、リンク先をクリックしてご参照ください) フリーダの母親は病弱であったため、彼女は乳母によって育てられました。この「乳母と私」に幼年期を伺うことができます。そしてこの絵の暗いトーンや涙雨のような背景からは、実の母に育ててもらえないかったフリーダの悲しみ・哀しさも伝わってくるようです。 絵の乳母は古代メキシコ・マヤ文明の像の顔をしています。 ・ティカルの遺跡 (画像はウィキペディアから) ・マヤ文明の遺跡から出土した像 (画像はウィキペディアから) フリーダはスペインがメキシコを占領する前の古代・中世メキシコの土着的な文明・文化を大変に尊重し、自らの文化的起源(アイデンティティー)もそこにあると考えていました。この考えは、彼女が選ぶ服の模様・柄にも反映されています。 ・Frida Love and Pain #5 (会場にて撮影) 絵でも、「自画像2」のように、民族衣装を着て描いている自画像も多くあります。 フリーダの人生を大きく苦しめたものが、2つあります。 1つは、幾度となく見舞われた大病です。 彼女は、幼少の頃、急性灰白髄炎にかかり、右足はモモからくるぶしにかけて成長が止まりました。彼女はこれを隠すために左右で足の高さが異なる靴を履いていました。 ・Frida by Ishiuchi #34 (会場にて撮影) ・Frida Love and Pain #10 (会場にて撮影) 同じ理由で、、メキシコ民族衣装のロングスカートなどを好んで着用していたようです。 ・Frida by Ishiuchi #2 (会場にて撮影) そして、学生時代の1925年、通学で乗っていたバスが路面電車と衝突し、フリーダも重傷を負いました。彼女は3か月間入院し、退院後も後遺症で背中や右足の痛みに悩まされるようになりました。この入院生活が、彼女が絵を描くきっかけになったようです。 その重症から回復後、彼女はメキシコの社会主義に傾倒し、共産党に入党します。 「Marxism will give health to the sick (マルクス主義は健康を病人にもたらす)」という絵のとおり、フリーダにとって、社会主義は人を心身から健全にし「松葉杖からも解放されるような」生活をもたらしてくれるもの、という信念がありました。 そして1929年、共産党で知り合った運動家・画家のディエゴ・リベラと結婚します。 闘病時代に始めた画業への熱心な取組みと、画家であるディエゴの助言もあって、フリーダの絵はますます評価されるようになります。 最初に評価されたのは、アメリカででした。 フリーダにとって最初の個展は、1938年にニューヨークで開かれました。 その頃、友人でもあったアメリカ人女優ドロシー・ヘイルがニューヨークで投身自殺した際、追悼画を描いています。 分かりやすい絵ですが、闘病に苦しむフリーダ自身の姿も投影されているかのようです。 フリーダは、ニューヨークで個展を重ねるうち、評価も高まり、絵の注文も増えていきますが、1940年には再び脊椎の痛みに悩まされ始めます。 ・Frida by Ishiuchi #16 (会場にて撮影) ・壊れた柱 これに急性真菌性皮膚疾患も加わり、入退院と画業の繰り返しを余儀なくされ、1950年には右足の血液の循環が不足して指先が壊死したため、指先の切断手術を行いました。 それでも、右足の痛みが鎮痛剤では耐えられくなったことから、1953年8月には右足の膝から下を切断します。 この写真は、正確には分かりませんが、おそらく彼女が服用していた鎮痛剤ではないでしょうか。 ・Frida Love and Pain #85 (会場にて撮影) 以後、フリーダは義足を使用することとなりました。 ・Frida by Ishiuchi #36 そのようななか、1954年7月13日、フリーダは肺炎を併発して死亡しました。 と書くと、フリーダの人生は暗い人生に思われがちですが、彼女自身の生き方がそれほど暗いものでもなさそうです。 それは、彼女は笑いを大切にし、生涯にわたり生きることに情熱的だったからです。 “Nothing is worth more than laughter. It is strength to laugh and to abandon oneself, to be light. Tragedy is the most ridiculous thing.” (最も大事なものは笑いです。笑いに身をゆだね、身を軽くことが力になります。不運を嘆くことは最も愚かしいことです) 実際に彼女は、闘病で苦しむ姿はいくつか描きつつも自らの闘病そのものは多くは描いていません。 生涯にわたり致命的なダメージを与えたともいえる学生時代の路面電車の事故については、まったく描いていません。 写真だけでは見えにくい面もありますが、社会主義運動にもつながる彼女の不屈の精神、ポジティブな明るさは彼女の生涯を貫くものです。その精神は、彼女の遺品に残された彼女の美意識・繊細さからも感じられます。 石内さんの写真は、フリーダのポジティブな精神から表れるフリーダの美意識・繊細さを、さりげなく掬い提示してくれているように感じられました。 一方、闘病生活のほかに、フリーダの人生を大きく苦しめたものがもう1つありました。 (②へ続く)
by zouchan6
| 2016-07-29 06:33
| 美術鑑賞 art watching
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